叫べ、叫べ、大きく叫べ!


俺の存在は全く気付かれず、進級し、初めて彼女を見た日から1年が経ち、蝉がうるさくなってきた頃。


相変わらず虚ろな目をした彼女は何を思ったのか突然フェンスの前に立った。金網をしっかりと掴んだ両手は重く震えていた。


そして何より彼女の纏うオーラが黒みがかっていた。


いつも見る色は紫と黄色。割合は紫が7で黄色が3てとこだ。

このふたつの色が混ざり合ったから黒く見えたわけじゃない。その色を覆い尽くすように現れた黒に不審に思って、瞬間的に読み取る力を解放してみた。


案の定だった。


彼女を纏うその色は『死にたい』と思う気持ちから湧いてでたものだった。


これ以上人の心を勝手に読むのは俺自身も疲れるため終了とさせたけど、彼女から逸らすことはしなかった。


下を覗く姿は以前の俺と少し重なるものがあったから。


すぐ下は駐車場。落ちれば即死だ。たとえ車があったとしても。助かるならそれは“運が良かった”だけのこと。


これから彼女はどうするのか。今すぐにでも飛び出してしまうのか。ただその姿を見届ける俺は止める気も無かった。



”死にたければ勝手に逝けばいい”



そう思ってた。彼女が笑みをこぼすまでは。



静かにフェンスから離れた彼女には黒い霧が晴れたようにいつもの色を纏っていた。


屋上を去っていった彼女の最後の零れた笑みが忘れられなかった。あの一瞬で笑うことができる彼女が羨ましかった。俺には到底真似することもできない。


黒い色を一瞬にして晴らす彼女に興味を持ったのはこの時から。



その感情に名前があることを知らない俺だけれど、『会いたい』と思うほど彼女を思い、そしていつしか会いに行けるようになったんだ。



幻すぎる夢の中で。