叫べ、叫べ、大きく叫べ!


彼らが必死にたくさんの思いを告げるけれど、眠る彼が危篤状態だからでは無くて。


ただ純粋に聞く耳を持たない彼に届いて欲しくて私が彼らにそう伝えた。


千木良くんは嘘をついている。
聞こえないというのも、病室に入れないというのも、戻れないというのも、全て。


これは憶測に過ぎないのだけれど、私にはそう思えてしまった。


この病室内に響く愛ある言葉はきっと眠る彼にも半透明の彼にも届いている。



だって――。



「もう、やめろよ!もうやめてくれ……っわかったから、もう、これ以上……っ」


泣き叫んだ半透明の彼が力無く1歩ずつ進んだのを捉えた。瞬時に私の目の前を駆け抜けて家族の元へ行くとそれぞれに触れて語りかけている。


私には聞こえる全ての発言を止めようとする声は彼らには届いていないようで、彼を無視して眠る彼に語りかけるその様は胸にくるものがあった。


私はこれ以上何もする必要は無い。ただ見守るだけにしたのは彼が今まで向き合ってこなかった家族の思いに 触れさせるためだ。



とことん味わいなさいよ。ちゃんと愛されているってことを。なにが『一歩引いた目を向ける』だよ。これを見てそんな風に見える? これでもそう見えてるって言うなら目を覚まさせてあげるくらい殴ってやる。


今は比べる必要は無いけれど、以前の私と比べたら断トツ千木良くんの方が愛されているよ。家族がバラバラになるわけでも、不仲でもないちゃんとした温かい家族じゃん。当時の私が知ったらきっと千木良くんを恨んでたよ。


だから恐れないで。ちゃんと向き合って。ちゃんと愛されていることを知って。家族はずっと千木良くんの味方だよ。そして私も――。



「香澄ちゃん今日は色々迷惑かけちゃってごめんなさいね……そしてありがとう。実はね、あの子を見ていて少し雰囲気が違うなって思うことがあったの。きっと香澄ちゃんに出会ったからなんだと思うの。物凄く穏やかで。本当にありがとう」


帰り際、病院の出入り口で足を止めて頭を深く下げるお母さんに慌てて上げるよう促すけれど頑なに下げ続ける彼女に自分の母と重なった。


ようやく視線が合いお互いふわりと微笑み合う。



「あの、私も急に変なこと出しゃばってしまってごめんなさい」

「香澄ちゃんが謝る必要なんかないわ。香澄ちゃんのおかげで気付かされたこと沢山あるから。支えるって傍で見ているだけじゃないのよね。“家族だから大丈夫”という考え甘かったのよね。……はあ、ほんと情けないわ親として」


両手で顔を覆って首を振るお母さんにそっと微笑んだのは単純に素敵だなと感じたから。


しばらく他愛ない話をした後、帰路を進んでいく。空は茜色から群青色へと移り変わりつつある綺麗なグラデーションに心を奪われた。


帰宅すれば「おかえり」とお母さんの声。後に続いて栞那の声が届いて、私は「ただいま」と笑顔で応える。



――このあたたかな瞬間が堪らなく泣きたくなるくらい愛おしいことを彼にも知ってほしい。