「嘘つき。じゃあ言ってあげる。前から気になってたこと。なんで千木良くんは自分のこと、『気持ち悪い』なんて言うの」
「なんでって……事実だろ。こんな体質で、見えたり、読めたりすることが気持ち悪いだろ」
「そんなことない」
「それは“香澄”だからだろ? 初めて打ち明けた時だって香澄は驚いてたけど俺の事引かなかった。俺には衝撃すぎたよ。でも他は違う。俺のこの体質を知った奴らはみんなして同じ顔をするんだ。家族まで俺のことを一歩引いた目を向けてくる」
『知らないだろ?』とでも言われているような目付きに私は静かに目を閉じ、小さく息を吐く。
やっぱり、と確信を持った。彼は大きな勘違いをしている。それも家族内のすれ違いだ。私の家族にどこか似ている気がしなくもない。
だってあんなに息子思いの母親が彼に愛想尽かしたりするはずがない。あの優しく語りかける声や眠っている彼を撫でる手つき、表情には愛情がしっかりこもっていた。
多分、家族内で多くを語る関係ではなかったのかもしれない。
そう思わさせるは、彼の母自身が彼について無知であったからだ。彼の交友関係も学校での生活も“少し”も知られていなかった。
だから尚更知って欲しい。千木良くんは何も苦しむ必要なんてないってことを。千木良くんは独りじゃないってことも。
「千木良くんは勘違いしてるよ」
「勘違い?」
「私、千木良くんのお母さん好きだよ。優しいし気さくだし、なにより千木良くんのこととても大事に思ってる」
「ハ、……嘘だ。あの人が? 俺のこと大事に? 何かの間違いなんじゃない?」
ありえないありえないと呟く彼に『そんなことない』と首を柔らかく振った。すると隣にいたはずの彼がどこにも居なくなっていた。
慌てて彼の名を呼ぶけれど返答はなくて、近くを探すけれどどこにもいない。
この東棟には居ないと思い向かった先は彼の病室だった。あまり焦らずにいたのはココにいると思ってたからだ。
駆け寄ると病室の前の壁に寄りかかって呆然と先を見つめる彼に声をかける。
悲しげにこちらを向く彼は悲しそうに呟いた。
「やっぱ入れなかった」
「そっか。私の後ろに付いてても入れそうにない?」
「多分無理だと思う。……この中音する?」
「え? ……うん、してるけど」
ドアに耳を近付けなくても分かるくらい心電図の音が聞こえている。それなのに彼には一切届いていないみたいだ。



