今目の前にいる彼は何故こんなにも自分を拒否しているのだろう。半透明の彼は戻りたがっているのに。
「千木良くんは何に苦しんでるの? 今度は私があなたを助けたい。だから教えてよ」
握る手に自然と力が加わる。意思が伝わるように。
こうしている内に思いが届いて、眠りから覚めたようにゆっくり瞼が開いて、私を捉えて、それから――。
「ふっ」
なに考えてるんだろ。彼が私を好きかも分からないのに。たとえ好きだとしてもそれは“友達”としての好意。だって私たちの関係は“友達以上恋人未満”なのだから。
「じゃ、今日はこれで失礼するね。またね」
もう一度手を握ってから席を立ち、病室を出た。
ふと何を思ったのか私の体は勝手に東棟へと歩き始める。
たどり着いた先は以前2人で話した自販機と長椅子のあるラウンジだった。
自分でも分かるくらいの胸の高鳴りと瞳孔の開き具合いを誘発させたのは紛れもなく“彼”の人影だ。
長椅子の端っこにちょこんと座って前を見据えているその後ろ姿にゆっくり近づく。驚かしたい衝動に駆られるまま息を潜めていると笑う声が目の前から聞こえた。
「ふはっ、凄い真剣だな」
「あーあ。あともうひと息だったのに。なんで気付くかな。もう少し我慢してくれてもよかったじゃん」
「あははっごめんごめん。つい気配が」
そう笑う彼の隣に座ると急にこてっと肩にもたれてきた。髪の毛ひと房も感じられない彼の髪の毛は半透明な姿でも分かるくらいサラサラしている。思わず触れてしまいたくなってしまいそうになった。
「どうしたの」
「んーなんかこうしたくなった。あ、許可取らなきゃダメな感じ?」
「ははっ、千木良くんなら無許可で通すよ」
「じゃ寄りかかり放題ってわけか」
チラッと見上げられたその視線に思わず胸がドキッとした。それも嬉しそうな顔をするから。
「一昨日は急にごめんな」
「え? ああ、大丈夫だけど急にはビックリした。だって開けたら座ってんだもん。お風呂前は居なかったのに。てか叫んじゃったし、親も妹も駆けつけてきたし。幸いみんなには千木良くんのこと見えてなかったからよかったけど……」
そう。2日前に突然現れた彼に驚いてしまった私は今までに無いくらいの甲高い声を上げてしまって。バンッと開けられたドアから3人の姿を目にしてさらに叫んでしまったのだ。
何とか言い訳を残すことができたけれど、あの瞬間はもう二度と味わいたくない。



