リビングに入ってきた瞬間クラッカーを弾けさせ、声を合わせ「退院おめでとう!」と叫ぶと「あら」と驚く母と「うおっ」と驚く父の姿に栞那と顔を合わせて『大成功だね』と微笑みあった。
それからは家族みんなで食卓を囲んでお母さんの退院祝いをした。
母の大好物であるオムライスを食べたお母さんは「とても美味しい。ありがとう。病院じゃオムライスじゃなくてオムレツだったから凄く嬉しいわ」と喜んでくれて、あっという間に完食した。
父も「お祝いだ!」と言いながらビールを飲んでいた。そんな父に苦笑いを浮かべる母だけどその眼差しは優しかった。
ほっと一息ついたところで、食べ終わった後一言も発していなかった栞那が口を開いた。
「あの……破ってごめんなさい……離婚届。それと、……っ、お母さんのこと、大嫌いなんて言ってごめ、なさ、っ」
多分栞那は今日までずっとその言葉が呪いのように思えてならなかったのだろう。その言葉のせいで母が倒れてしまった、そう思い続けていたんだと思う。
俯いて泣く彼女の背中を優しく擦る。
母は栞那を見据えて困ったように息をついた。
「栞那。顔を上げて、こっち見て」
お母さんは顔を上げた栞那に笑顔を向けた。それも優しさが溢れるように。
「あの紙切れはもう必要無くなるかもしれない。まだ分からないけどね。もう少しお父さんと話さないといけないから。それに……私の方が謝らないといけないこと沢山あるの。2人とも本当にごめんなさい」
テーブルに頭を打ってしまいそうな勢いで下げる母に私たちは慌てて顔を上げるよう促す。それでも頑なに動かない母に私たちは浮かせた腰を下ろした。
顔を上げた母は今度私を見据える。
ドキリと胸が弾んだ。
濡れた視界じゃないクリアな視界で見る母の顔は……痩せ細くて、力無く笑っていた。
無性に泣きそうになる。
「香澄。ごめんね、沢山傷つけて。あなたは私の大事な娘なことに変わりないのに、あなたのこと、……、『要らない』なんて、……あなた達を引き離そうとして、自分の事しか考えてなくて、……今までずっと傷つけてしまってごめんね」
母の目は充血してはいるものの涙は溢れていなかった。けれど声は震えていた。強い人だと思った。
私たちは母の分の涙を流しながらゆっくり紡いで伝える声を聞いていた。
3人で泣き腫らした後、母は遠くを見据えていた。何かと思い振り向くと、そこには父がソファに寝転んでいた。大変くつろぎモードだ。ある意味憎たらしい。いい意味で。
そんな姿に母は呆れながら「ほんと自由な人っ」と笑っていた。



