叫べ、叫べ、大きく叫べ!


―――………

――……

―…


飾り付けOK。手料理OK。もう準備万端だ。いつ帰ってきてもおかしくない。


いよいよもうすぐ母が家に帰ってくる。2人して緊張気味でいるけれど、私の方が勝っていると思う。


だって、久しぶりに顔を合わすのだから。修学旅行から帰ってきた時はタンカーに横たわっている姿しか見ていないし、面と向かってまともに見たのは……――修学旅行参加希望用紙にサインしてもらった時だった気がする。


いや、もっと前か。その時は横顔しか見えなかったから。



「はぁ……緊張する。もう夜ご飯食べれないかもしれない」

「お姉ちゃんしっかり!……って私ももうお腹いっぱい」

「それは栞那つまみ食いばっかして、――!」


鍵を回す音を耳にして言葉を飲み込んだ。慌てて玄関へ駆けつける。緊張のあまり姿勢が素晴らしく良い私たちは、今まさに開けられようとしているドアに集中した。



ゆっくり開けられたその隙間から手が覗いた。お母さんのだ。あまり綺麗とはいえないその手は骨骨しかった。うっすらと血管も見える。見ないうちにお母さんの手はこんなにも薄っぺらくなってしまったのだと動揺した。



「ただいまぁ……って2人とも何して、――」


涙が止まらなかった。それは栞那も同じで。母の胸の中に飛び込んだのはほぼ無意識だった。身体が勝手に、本能的に、動いてしまったのだろう。緊張を飛び越えて安堵が身体中を占領する。


頭上で困ったように声を紡ぐ母をよそに、私たちは泣き続けた。背中に回された母の手が温かくて涙は増すばかりだ。


見上げると濡れた視界からでも分かる母の顔。やっと見れたその顔は困り果てた様子で微笑んでいた。いつになく優しさ溢れる笑みはあまりにも温かくて、胸の奥を締め付けた。



「お母さんおかえりなさいっ」

「ただいま。心配かけたわね。ごめんね、そしてありがとう」


頭を撫でられてしまえばもう声が出せなかった。どの返答にも頷くか首を振るかしか出来なくて、泣きすぎて目は痛いし、苦しいし。心は潤ってきているのに顔も身体中ももうボロボロだ。


お母さんの後ろから父の声がした。この光景に戸惑った声をあげるとお母さんが「ここで待っていてくれていたみたいなの」と嬉しそうな声にお父さんは笑って言葉を交わしている。


父と母が喧嘩せずに普通に笑いあってるこの図は私が今までずっと求めていたもので、一体私はいつ泣き止むのか。


栞那はだいぶ収まってきているみたいなのに。



このまま一生分の涙を流してしまうかもしれない。それ程に2人が普通に話している姿が嬉しかったんだ。