放心状態の私はその場にへたりと座り込んだ。千木良くんは救急隊員によって救急車で運ばれた。心肺蘇生してくれていた男性は運ばれた先のお医者さんだったみたい。的確な処置と冷静な対応に納得するものがあった。


出来れば私も連れて行って欲しかった。だけど先生に止められてしまった。代わりに千木良くんのクラスの担任が付き添ったそうだけど、もうほとんど記憶にない。


千木良くんが蘇生される姿と「頑張れ」と励ます男性の声ぐらいしか覚えてない。


肩に何かが触れ、頭上で声がした。見上げると文香と皐月が今にも泣きそうな表情でいて。



「あやか、めい……どうしよう。どうしようどうしようっ千木良くんが、!」

「香澄っ落ち着いて。大丈夫。大丈夫だから」

「う、うん。でも……どうしよう……千木良くんが死んじゃ、」

「そんな事言っちゃだめ。千木良くん頑張ってるんだから香澄ちゃんがそんな弱気になっちゃ駄目だよ! 大丈夫。信じて待と」


肩をしっかり掴まれて力強い目で私をなだめてくれる2人に力無く頷いた。
私を支えラウンジへと運ばれる。
そこには都波、真田くん、糸口くんもいた。


私を囲むように集まる5人。なにかを言ってくれているみたいだけど声が遠くに聞こえてしまって俯くだけで精一杯だ。


なんで私はこんなところにいるんだろう。なんで先生は私を行かせてくれなかったの。大切な人なんだよ。傍にいたかったんだよ。なんで止めたの。


どうしよう。本当に死んじゃったら。どうしようっ。千木良くんが死んじゃう……? ちゃんと助かる? いやだ。千木良くんが居なくなるなるなんて考えたくない!


暗闇の中さまよい続けて出した考えに立ち上がると皐月に行く手を阻まれた。



「やっぱ私も病院、」

「香澄ちゃん今は我慢しよう。どこに運ばれたかも分からないでしょ? ね?」

「先生に聞く。千木良くんが死んじゃうかもしれないんだよ!? じっとしてられない。お願い皐月行かせて」


強く懇願すると皐月は強く首を横に振った。半ば睨みにも似た目付きで私を見つめる彼女を初めて見て身体がひりつく。しまいには手首が痛くなるほど握り締められた。



「香澄ちゃん。簡単に人を『死んじゃう』なんて言ったら駄目だよ。確かに人間はいつかは死んじゃう生き物だけど。それでも頑張って治そうとしてくれる人がごまんと居るんだから。信じなきゃ。大丈夫だよ。千木良くんは大丈夫。だから、ね?」


座ってと優しく手を引く彼女に吸い寄せられ、元座っていた所に戻ってきた。ごめんねと手首を撫でられ私は首を振る。もちろん“大丈夫”と“ありがとう”を込めて。