叫べ、叫べ、大きく叫べ!


確かに噂になってもおかしくないくらいには彼もイケメン。私でさえ“かっこいい”と思ってしまったくらいだもの。
それに屋上で会うまで彼の存在すら知らなかったことに関しては少しほっとした。


私だけが知らないとばかり思っていたから。
友達のいない私は人づてから話を聞くことは少ないことがほとんどだし。盗み聞きを趣味化してた私だけど千木良くんの話なんて聞いたことがなかった。


未だに彼の存在を知らない人がいると聞けば、千木良くんが“眠りの王子様”と言われている話を聞いている時より胸の加速が落ち着いている。


……これはなんて言うのだろうか。



「香澄ちゃんは千木良くんが好きだよね?」


躊躇うこともなく頷く。皐月はほっとしたように笑って、文香は頬に手をあててヒャーと恥ずかしそうに唸った。


ずいっと近づいてきた皐月にギョッとする。すると頭を撫でられた。不思議に思って首を傾げる。



「確かに千木良くんのした事はホントーっに最低なことだと私も思う。まだ許さなくてもいいよ。だけど次会ったらもう一度話してみたらどうかな? 香澄ちゃん、苦しいでしょ?」


確かめるみたいに傾げる皐月に私は何度も頷いた。ポタリと手の甲に冷たい何かが落ちたのはやっぱり涙で、その苦しみから解放されるように流れるそれを文香が優しくティッシュで拭ってくれた。


それからは明日という名の今日を思い布団の中に潜り込んだ。


今は2人とも静かに寝息を立てている。



『きっと千木良くんも苦しんでるかもしれないよ。あんなことしたのも何か理由があったからかもよ?』


寝につく前にポツリと伝えられた皐月の声を思い出す。


理由か……。


あるなら言ってくれればいいのに。

いつも私のことばっか優先してくれるけど、私も千木良くんの悩み事とか聞きたい力になりたいと思っているのに。あなたが言うまで待つって言ったけど、こうなったらもう私から聞いちゃうよ。


踏み込んじゃうよ。千木良くんのこともっと知りたいよ。
何が千木良くんをそんなに苦しめているのか知りたいよ。
千木良くんが私にしてくれたように、私もあなたを安らぎに導いてあげたい、ぎゅぅと抱き締めるから。だから。


あなたの笑った顔を私だけに見せて……──。