「……千木良くん?」
か細い声で彼を呼ぶ。反応は返ってこないのは分かっていたけれど心配が募っていく。
あの日の穏やかな寝顔とは真逆だった。
眉間に皺を寄せ、歯を食いしばって……。
ねえ唇が切れちゃうよ千木良くん。
何に苦しんでるの。
「千木良くん」
3度目の呼びかけで薄らと瞼が開かれた。
焦点が定まっていない虚ろな瞳は相変わらず深く綺麗な漆黒だ。まだ眠そうにとろんと落とした彼が一気に顔を上げたのは、私が彼の視界から外れた時だった。
「えっ、え、えなんで……!?」
「おはよう」
「……あ、いやなんでここ……え?」
「なかなか寝つけなくて。そしたら千木良くん見つけたの。首痛くないの」
「あっそう。首……あー……少し痛いかも」
だよねと笑うと彼は首の痛みを探すように左右に傾けて確かめて「首より背骨が痛い」と背中をさすった。
千木良くんはよろよろと自販機に近付いて小銭を入れボタンを押した。ガコンと下に落ちた物を取ることなく、彼は私を見た。
「何に飲む? 今あるの水とレモンティー、カフェオレ、シークワーサーぐらいだけど」
その振り向き方に私の心は異常に反応したのを気付かないふりをして「じゃ、シークワーサー」と応えると了解とでも言うかのようにボタンを押した。
ちょっと、何今の。振り向いただけじゃん。なんでドキドキしてるの。変すぎる。でもなんかかっこよ……ッ、いや、服のせいかもしれないし自販機の光のせいかもしれない。
……でも、千木良くんってかっこいいんだよね。好きなタイプなんて考えたこともないけど初めて会った時にも不思議と率直に『かっこいい』なんて思ってたし。文化祭の彼だって不覚にもときめいてしまったのは事実だし……。
『気付いたら“好きかもしれない”っていう体験してみたいんですけど!』
――っ!
文香の言葉を思い出した。
寝る前、私たち3人の他に同室の女子3人――有野さん、有田さん、有賀さんを交えて修学旅行定番の話題、恋話だ。
3人とも彼氏がいるらしく聞いているだけで私まで恥ずかしくなってしまったけれど、文香と皐月は羨ましいと聞き入っていて、そんな3人の馴れ初めを聞いた文香の感想がこれだった。



