全ては向こうから仕掛けてくるだけで私は被害者なのだから何も恥ずかしがることなんてないけれど、少し忘れかけていたあの感触をなぜか急に思い出してしまったせいだ。
「ちょっと雅、夏澄に何したの」
「さあ?」
「か、夏澄ぃなんでそんな顔赤いのぉ……本当に変なことされてない? 嫌ならちゃんと言いなよ?」
「変って失礼だな。ねっ夏澄ちゃん」
な、なんで私に振るかな。
本当に何かあると思うじゃん。
……まあ現時点で思われているんですけど。
返答に困っているとタイミング良く順番が回ってきた。
「いらっしゃいま……せ」
弾んだ声から急激に語尾が切なく小さくなった彼女が一点を見つめる。
視線は私とぶつかっていて私も彼女――栞那を見つめた。
以前までショートだった髪は肩ぐらいまで伸びていて、焦げ茶の髪色には新たに色が加えられていて毛先が緩く巻かれてあった。
そこにいるのは私の知っている妹じゃなかった。別人だ。お化粧を施しているせいかもしれないけれど、大人びていてほんの少し切なくなる。
そう思ってしまったのはすれ違うことが多くなったせい。
やっぱり顔なんてまともに見ていなかった。家族なのに。私の妹なのに。
栞那も同じ高校生なのだからお化粧だってするじゃないか。なのに私はなんでこんなに悲しいのだろう。“変化すること”が悪いとは思わない。
むしろたくさんそうして欲しいと願っていたことだ。
栞那が楽しんでいれば、笑顔でいれば、高校生らしい事やモノに触れてくれたら、私が出来ない日々を送ってくれてさえいれば嬉しい。
……はずなのに、目の前の女の子を見ても私の心は静かなままだ。
私たちは何も話さなかった。他人のような振る舞い。栞那は私から視線を外して次々と注文をメモ帳に取っていた。
それを見つめるしか出来ない私は本当に姉なのだろうか。まさに私たちは受付と来客だった。



