叫べ、叫べ、大きく叫べ!


「ありがとう」

「…………すき」

「ちょ、ちょっと!なに抱きついてくんのっ離れてっ」

「えやだむり離したくない可愛すぎてむり」


押し返してもビクともしない体に諦めてしばらく抱き締められる事にした。
耳元に彼の息と毛先がかかってくすぐったい。それを彼の服にこびり付いた香ばしい匂いで蓋をする。



「楽しかった?夏祭り」

「んー……楽しかったけど夏澄ちゃんいなかったからそこまで楽しいとは思わなかった」

「そっか。でも沢山食べたでしょ。色んな匂いがする。いいなぁ」

「俺はあんま食べてないよ。結構食べてたのはアヤと真守くらい。あ!」


思い出したように小声で放った1文字が耳を刺激してぞわりと身の毛がたった。
温かさが解けて湿った空気に身が晒される。


何やらボディバッグの中を覗いて探しているその様子に首を傾げる。そして差し出された長方形でシンプルなピンクの包み紙。ワンポイントにリボンのシールが貼られてある。


手の中に収められると開けてみてと促すように笑って、ペリペリと丁寧に包みを開封した。



「……わ、綺麗」


中から姿を表したのは簪だった。

蝶がモチーフの輝いて見える水色のそれは着ていこうとしていた浴衣にピッタリだと思った。思わず見開いて彼を見上げてしまう。すると珍しくそっぽを向いて照れたのか人差し指で鼻のてっぺんをかいていた。


らしくない反応に私は顔を緩めた。



「ありがとう。大事にするね」

「うん……って、えっ大事にしてくれるの!?」

「なにその反応……大事にしちゃ悪いの?だって私のために選んでくれたんでしょ?嬉しいもん。大事にするよ。……変なの」


都波は両手を顔に当ててそのまま天を仰いだ。

ぶつぶつと声を漏らしているけれど私には何を言っているのか分からない。
分かることといえば、息が異常なくらい荒いってことだけ。ものすごく不審者だよ今の都波は。ちょっと気持ち悪いくらい。いやちょっとどころじゃないかも。


くぐもったまま私を呼ぶ彼。



「夏澄ちゃん」

「なに。そろそろ家入っていい?」

「うん、だけど今物凄く抱き締めたいんですがいい、」

「やめてください。……じゃあね。ありがとう」


素早く家の中へ逃げた。最後に見た都波の顔は残念そうに歪ませていた。