叫べ、叫べ、大きく叫べ!


程よく静かな住宅街を歩く。
隣にはまだ千木良くんがいて、変わらず手まで繋がれている。
恥ずかしさはすっかり忘れて今じゃ馴染んでしまったようにこの手は心地いい。


手のひらから伝わる彼の優しさをいつまでも感じていたいという不思議なキモチを抱きながら「今日はありがとう」と伝えると何も無かったとでも言っているような表情を向けられた。


そしてふっと息を漏らして彼は笑う。



「やっぱ土管の中狭かったな」

「うん。でも入れたのは千木良くんだからね」

「そうだけど、見た目俺でも入れると思ったし、泣ける場所はあそこしかないと思ったんだけど失敗したな。結構中に響いてたのわかった?途中冷や汗止まんなかったし。あれもう少し中広げて欲しいまじ背骨折れそうだった」

「あはは。ね。意外と響いてて自分でも恥ずかしかった。ふふっ、冷や汗?知らなかった。でも暑いのかな?とは思ってた。まあ中広げるのは今からじゃ無理があるよね。そもそも子どもが遊ぶ前提でしょ。子ども重視して設計されてるんだからそりゃ痛くなるよ」


なるほどなと頷く彼は痛みを思い出したかのように背中をさすった。


あの体勢はキツかっただろうなと思い出す。
ギリギリ楽な姿勢でいられる空間だったけれど身長がある彼は頭を縮こませてさらに背中も丸めて、しかも結構な時間同じ体勢でいたのだからそれは辛かったはず。


泣いてる私を何も言わずにそばに居てくれた彼には感謝しかない。


もう一度ありがとうを告げると澄んだ夜空を見つめながらぶっきらぼうに返された。


顔は見えるけれど顔の色までは分からない。表情が変化しない彼の心を覗きたくても分からない。


声のトーンからして迷惑そうではないと思うけれど少しは感情を出してくれてもいいんじゃないかな、と思ってしまう私は欲しがりかな。


――もっと彼を知りたい。


思えば彼のことはまったく知らないことの方が多い。
名前、学年、年齢、体質くらいしか知らない。あと、家に着いたら知るであろう彼の連絡先。


でもそれだけしか私は知らない。