叫べ、叫べ、大きく叫べ!


スマホもお金も何も持たず、ただただ走る。
持久力なんてものはない。
息が苦しくなってもどうでもいい。
私は足を止めない。止めたくない。


別にこのまま息絶えてしまえばいいよ。
酸素も要らない。もっと苦しくなってしまえばいい。


私はどこへ向かっているのだろう。
分からない。


とにかく家から離れたいその一心で走る。


流れていく景色はあまり見覚えがなくて、“知らない場所”という認識に少しドキドキしたけれど、それは走っているからだとすり替えた。


まだ気持ちはどこまでも行けるというのに、足はだんだんと速度を落として鉛のように重くなって、終いには立ち止まってしまった。


そうすれば一気に酸素を欲しがって、呼吸が大きく乱れる。


こんなに走ったのははじめてで、苦しいのにどこか気持ち良くて。


屈んでいた身体を起こして空を見上げるとそこは鮮やかなピンクオレンジに染まっていた。



「……きれい」


ポツリと呟いてゆるりと歩みだす。


こんな状態でもそう思えるだけでまだマシか、と笑みをこぼそうとして止めた。


母の言葉を思い出した。



『最近楽しそうでいいねぇ』


これは玄関で言われた最初のひとこと。



『勝手に楽しむなよ。ヘラヘラヘラヘラしやがって、見てて凄くムカつくの分からない?栞那ちゃんも言ってるよ?アンタが楽しそうでずるいって。ちょっとは考えたら?』


これは、私がみんなにメッセージを送ってる最中にとどめを刺すかのように言い放たれた言葉だ。