「なに。なんか文句あるの?言ってご覧よ、ほら」
腕を組み出した母にドクンと嫌な音が響き出す。
ああ、だめだ。もうだめだ。だめだめだ。
頭の中は『だめ』が響いていて、ついに支配されてしまった。
すっかり黒く染ってしまった心は気付かないまま、合わせていた目を私から逸らして「文句なんてないよ。大丈夫行かないから」そう言うと「あっそ」と母は背を向けてリビングへ向かった。
素早くメッセージアプリを開いて《すまいる》のトーク画面を開く。
一言だけメッセージを送信して電源を落とした。
自室に戻り、浴衣から部屋着へ。メイクも落として。それから……。
ベッドに身を投げてから今になってやっと溢れ出す。
「っ、ふっ……っぅ……くっぁ……」
どんなに声を押し殺しても悔しさと憎しみと悲しさと、色んな負の感情が入混ざって嗚咽とともに溢れ出す。
なんで。なんでなんで?なんで……。
どうして行っちゃいけないの。どうして楽しもうとしちゃいけないの?
どうして、なんで、どうして……。
嫌だ。こんな家嫌だ。こんな家族も、全てが嫌になる。
今頃みんな夏祭りへ向かっているだろうか。
……向かってるよね。
私が居なくても楽しんでるよね。だって5人は仲のいいグループだもん。
私が居なくたって元に戻っただけ。そう。そう思えばなんてことない。
そう思いたいのに。
止まらない。むかつく。嫌だ。大嫌い。
黒く染まった心はこの部屋の中よりも黒い。
涙を無理やりにでも押し殺して、顔を傷つけるかのように乱暴に拭って、身だしなみなんて気遣うことなく、家を飛び出した。



