理想の人は明日から……

「この度、代表取締役副社長に任命されました、白川達哉です」



  ええ――。


  部長!


 私の思考は止まった……



「驚かれましたか?」

篠田さんの声に、息をする事を思い出した。


「そりゃ……」


「部長は、社長の息子さんでしたから……」


「ああ…… 白川…… 同じ苗字…… 気付かなかった……」


 私は、ただ茫然と答えた。


「私も、この度、副社長室へと異動になります。南さんとデスクを並べて、お仕事させて頂けて、本当に楽しかったです。南さんの素晴らしい所を、沢山拝見させて頂きました」

篠田さんは頭を下げた。


「そ、そんな…… 迷惑かけてばかりで…… 篠田さんまで居なくなるなんて……」


私の目からは涙が、ポロリと落ちた。


「大丈夫…… また、すぐにご一緒できますよ」


「篠田さん…… あなた一体……」


「それでは失礼します。あっ。涙ちゃんと拭いて下さいね……」



 篠田さんは、背筋を伸ばし凛々しく、そして控えめな歩きで去って行った。