人質の客も銀行員も一か所に集められた。

 十数名いるだろうか?


 床に座らされたのだが、妊婦の女性は苦しそうだ……


「すみません。彼女だけでもソファーに座らせてあげて下さい」
 支店長らしき人の声に、覆面男が肯いた。


 私は、カーデガンを脱ぐと、妊婦の彼女のお腹に掛けた。


「ありがとう」

 彼女は苦しそうに言った。


「大丈夫。絶対助かるから、がんばりましょう」

 すると

「勝手な事するんじゃねえ!」
 覆面男が怒鳴った。



「お願い…… 彼女だけでも解放してあげて。これ以上は無理よ! 変わりに私がなんでもするから」
 私は必至で訴えた。


「ふん」

 覆面男の表情は分からいが、困惑しているのが分かる。


「このままだと、ここで生まれちゃうかも?」


 もちろん、そんな事は私にも分からないが言ってみるしかない。


「うっ。分かった。そいつだけ解放する。だが、お前が出口まで連れて行くんだ。もし、下手な真似したら、打つからな!」


 男はまるで、私を脅すように天井に向かって銃を撃った。


 私は妊婦の彼女を支えるように、銀行の裏口へとむかった。
 後ろからは覆面男が銃を押しつけて来る。
 かなりの恐怖に足がすくむが、今は彼女を外へ出さなければ……


 「おい。妊婦。警察の奴に逃走車を用意するように言え! いいな! もし用意しなければ、こいつが死ぬからな!」


 彼女はひきつった顔で大きく肯いた。



 裏口を開けて、私は手を振った。

 すると、数人の警官が駆けつけてきた。

 彼女を警官に引き渡すと、警官が私にも手を差し伸べたが、大きく首を横に振って銀行の中へ戻った。



 私は、又人質達と一緒に床に座わらされた。

「ありがとう」

 支店長が涙目で頭を下げた。


 彼女が助かりほっとしたのと同時に恐怖が襲ってくる。


 しかし、私の目に浮かぶのは、チャラ部長の姿だ。


 なんでこんな時に……  


 でも、部長の顔が早く見たい…… 


 部長……


 もう一度、部長に会いたいよ……



 どれほど時間が経ったのだろう? 


 外は薄暗くなっている気がする。


 覆面男達も苛々してきているようだ……



 その時、カウンターの電話が鳴り、覆面男が支店長に出るように指示した。


「もしもし…… はい、はい、そうです。はい、はい」


 いきなり、覆面男が受話器を取り上げ声を荒げた。


「いいかげんにしろ! 逃走車はまだか!」
 と怒鳴った時だった。



 支店長が勢いよく覆面男に体当たりしたと同時に、天井のダストボックスと裏口、ガラス窓を割り複数の警官が飛び込んできた。