一途な御曹司は、ウブなお見合い相手を新妻にしたい

「颯馬さんが、既にいらっしゃっている」

「……え、嘘でしょ?」

思わず時計で時間を見てしまうと、まだ八時三十五分。それなのにもう来ているの?

信じられず呆然とする私の背中を、お父さんが玄関に向けてグイグイ押し始めた。

「嘘だと思うなら自分の目で確かめてきなさい。ほら、早く」

あっという間に玄関まで来ると、バッグを押しつけられてしまった。

そしていつになく真剣な面持ちを向けてきた。


「いいか? 楽しんでくることが大前提だが、くれぐれも……! 粗相のないようにな」

念を押されると一気に緊張感に包まれてしまい、ごくりと生唾を飲み込んでしまう。

「わかってる、そこはちゃんとうまくやるから」

「本当だな? 父さん、美弥を信じているからな……!」


たかだかデートひとつでオーバーなやり取りだと思われてしまいそうだけれど、私がこれから一日共にする相手は、そういった相手なんだ。

向こうの気まぐれだろうが、物珍しさだろうが、一緒に過ごす以上気をつけないと。