そもそも最初からあり得ないって思ってたじゃない。

下請け中の下請け会社の娘である私なんかとお見合いしたいって聞いた時点で。

どうせ会ったら断られるだろうって思っていた。実物を見たら、向こうから断りを入れてくるだろうって。


「……あっ」

重大なことに気づき、足が止まってしまう。


そうだ、変な人でも相手は大取引様のひとり息子。おまけに時期社長。

だからお見合いに参加して、向こうから断ってくるのを待とうとしていたのに、私……あの人になんて言った?


「自分から断っちゃった、よね?」

言葉にしてサッと血の気が引いていく。

「いっ、いや! でも悪いのはあっちだし……!」

そうだよ、向こうが悪い。それに追い掛けてこないってことは、私と亡くなった愛犬のミャーとは、全然違うって思い知ったのかもしれない。

私、けっこう強気に言っちゃったし。

「でもまさか腹いせにうちとの契約を突然切ったりしてこない……よね?」

そんな不安がよぎるけれど、そこまで嫌な人だとは思いたくない。

失礼で変な人だけど、なんていうか……純粋な人でもあるのかなって思っちゃったし。