心をかき乱され、声が出ず口をパクパクさせることしかできない。

するとなぜか彼はそんな私を見て、満足気に頷いた。

「うん、信じてくれたようで嬉しいよ」

なっ、なんでそうなるの!? 私、そんなこと一言も言っていないし!


なにより話を聞いて、ますます信じられないんだけど! この人の目はおかしいんじゃないだろうか。私が可愛い? 世界中の誰よりも魅力的!?

歯が浮くようなセリフのオンパレードの撃沈寸前。

目の前に座る彼は、珈琲を啜りながらどこか照れくさそうに話し出した。

「正直僕はこの歳になっても、人を好きになるって感情が分からずにいたんだ」

「え?」

意外な彼の話に、驚きを隠せない。だって見るからにモテそうだし、華麗なる一族なわけだもの。恋多き人生だったと思うじゃない?

けれど違ったようで、彼は眉尻を下げ、話を続けた。


「今まで誰かを好きになったこともなかったし、なにより興味がなかった。幼い頃は勉強が楽しくて仕方なかったし、大人になったら覚えることは山ほどあったからね。実際今も、仕事のことで頭はいっぱいの毎日を送っている」