「いやー、いつもすまないね美弥ちゃん」

「でも美弥ちゃんが淹れてくれるお茶が、世界で一番うまいよ」

順番に配っていくと、みんな決まって同じ決まり文句を言う。
特に五十代のベテラン社員、森さんと田山さん中心に。


「もー、いっつも口だけはうまいんだから! そんなこと言って、本当は奥さんのお茶が一番美味しいと思っているんでしょ?」

冗談には冗談で返すと、みんなゲラゲラと笑い出す。


ここは都内の外れにある、(有)水谷製作所。自動車部品を製造、納品している小さな製作所で、従業員数二十名のいわゆる町工場だ。

経営者は私の父親。創設者である今は亡きお祖父ちゃんの跡を継いだ二代目だ。

そんな小さな町工場でたったひとりの経理事務として働く私、水谷美弥(みずたにみや)、二十一歳。高校を卒業後、経理専門学校へ進学し無事卒業後、ここで働いている。

身長百五十五センチ。トレードマークは私が幼い頃亡くなった母親譲りのフワフワ天然パーマ髪。