九月上旬。
都内でも有名な高級ホテル。

学生時代、友達と『あのホテルで女子会したいね』なんて話をしたりして、いつかは訪れたいと思っていた。

けれど決してこんな形で訪れたいわけではなかった。

いつになくオシャレをして、ガッチガチに緊張しているお父さんとやってきたのは、憧れのホテルの最上階にあるレストラン。

案内された先は東京都内が一望できる、見晴らし抜群の個室。


「失礼します」

ドアが閉められると、緊張でいっぱいの私とお父さんの元へ、早足で駆け寄ってくる人物がいた。

そして私の前で立ち止まると、吸い込まれそうな瞳を向けられたまま、耳を疑うようなことを言い出したのだ。


「僕と結婚しましょう、今すぐにでも」と――。


* * *


「皆さーん! お茶が入りましたよ、休憩にしましょう」

午後十五時過ぎ。声を張り上げて言うと、工場内のみんなは手を休めた。