車に乗って、着いたところは勿論学校。
この周辺……いや、日本で有名な金持ち学校、私立明星学園。

幼稚園から高校までのエスカレーター式。
成績優秀者が多いが、金さえ積めば結構楽に入れるらし……おっと、口が滑った。

自分の家より少々大きな校門をくぐり、校内に足を踏み入れると、見事に歓声(?)が沸き上がる。

「キャアアッ!怜夜様よ!!」
「おはようございますっ!」

皆、俺の鼓膜を事故に会わせたいのか。
酷すぎるぜ、それは。
取りあえず、適当に挨拶を返し、早足で教室に向かった。


まぁ、教室でも大体同じで。騒がれるだけ。
一体何が楽しくて、毎日人に纏わり付くのだろうか。疑問だ。

先程と同じく、挨拶してくる女子の間を通り抜け、1人の生徒の元に向かう。

「神楽~」
「あ、おはよー、怜夜」

避難所、もとい神楽の元へ。

神楽は俺が来ると、にこやかに笑みを零す。
かなり女顔だけど、これでも一応男。
二次元で言う……男の娘?どっちにしろ美少年。

「怜夜ってば、いい加減慣れなきゃ。高校入学してもう一ヶ月だよ?」
「うるせぇ。あんなの慣れる方が困難だろ」
「はいはい。そういえば怜夜、昨日テレビ見た?」
「あー、見てないな。昨日は勉強してた」

そんな会話を繰り広げていると、その中に入ってくる女子。

「あの、怜夜様、神楽様!クッキー作ったので貰ってください!」

顔を赤らめ、頭を下げながら、丁寧にラッピングされたクッキーを二つ差し出される。
俺はそれを受け取り、微笑んだ。

「ありがとう。大事に食べるね」

俺がそう言うと、女子は顔をパッと明るくして、ありがとうございます、なんて言って、他の女子の元に戻っていった。

「いやー、さすがは怜夜、女子に対する態度が違うね!」

クッキーを手渡すと、神楽はそう言った。
教室を見回し、誰も見ていないのを確認して、口を開く。

「……それが大人、だろ。嫌な顔は隠す」

俺が呟くと、神楽は楽しそうに笑った。

「……あーあ、怜夜の裏面でちゃったぁ」
「お前も同じ、だろ。可愛い顔して、な」

息をするように、嘘を吐く。

それが一番、俺に合ってる"大人”。