とりわけ仲の良い友達という訳ではなかった拓也だが、
優しい性格の彼は近頃武彦の様子がおかしい事に気付き、
ほおっておく事が出来ず、
気分転換になればと思い誘ったのだが、
しかしこの行動がその後の武彦の人生を狂わせてしまうとは誰も思わなかっただろう。
武彦は拓也に付いて行きゲームセンターに入っていく。
暫くの間彼は拓也が楽しんでいるゲームを隣でみているだけであったが、
暫くして辺りを見まわし、
その後店内を歩いてみると或るゲームに興味を示した。
彼は隣で他の客が楽しむのを暫く観察して操作を覚えると、
同じタイプのゲーム機に向かった。
そしてコイン投入口にコインを落とすと、
恐る恐るゲームを始めた。
始めは興味だけであったが、
続けていくうちに徐々にのめり込んでいってしまう武彦がそこにいた。
それはプレイヤーがゲームの主人公となり敵を倒していくという、
いわゆるシューティングゲームである。
武彦は自らが意のままに操作し、
画面上のキャラクターが放った銃弾等により、
敵のキャラクターが倒れていくと言う事に、
今までゲームなどやった事のない武彦にとって衝撃と共に快感を覚えてしまったのだ。
それまで母の言う通りにしか動いてこなかった武彦は、
例えゲームとはいえ自らの意志により判断出来る事に最高の喜びを感じていた。
それまで母親の期待に応えようとただひたすら頑張ってきた武彦だが、
この事をきっかけに張り詰めていた物がプツンと切れてしまった。



