シグナル


一方賠償金について争っている民事訴訟の方はと言うと、

当初の予想通り難航していた。


その事について、

井上が坂田家を訪ねた時の事であった。


井上がそれまでの進行状況を説明していると、

精神的に憔悴してしまっていた武雄が、

突然切り出した。


「井上もういいよ…

今請求されている賠償金は、

何とかして俺たちが払う!

だから和解の方向で話を進めてくれ!」

「何言ってるんだ!

このままでは犠牲となった二人の請求額だけでも、

三千万近くにもなるんだ!

それだけじゃないぞ…

被害者は犠牲になった人だけじゃないからな!

他にも重軽傷者が何人かいるだろ?

うち一人は依然重体だ!

彼らからも賠償請求を起こされているからな。

総額にしたら五千万を軽く超えるだろう!

もはやこれは個人で払える額ではない。

以前も言ったが分割になると思う…

それでも少しでも安く出来る様にしないと、

払いきれないだろ!」

「もともと武彦が起こしてしまった事件なんだ。

なんとしてでも払いきってみせる!

でないと被害者の方々に申し訳なくて…

恥ずかしい話、

俺はこれまで武彦の事を美智代に任せきりにしていた!

正直…子供は苦手でな!

だからどう接したらいいか分からなかったんだ。

美智代だってそうだ!

武彦に期待しすぎる余り、

過度のプレッシャーを与えすぎた…

あいつが事件を起こして始めて気付くとは…

俺達も親として未熟だったのかもな…

その未熟さが武彦という名の少年Aを生み出してしまったのかもしれない」

武雄の反省を込めた発言に対し、

戒めを込めて話し掛ける井上。