「おや、おはようございますブラント君」


そう挨拶をしてきたのは、私が通うレストア皇国にある軍の士官学校の教員アーゼルだ。
ブラントとは今の私の姓である。


「おはようございますアーゼル教官」


アーゼル教官は、士官学校の教員だが本来なら少佐に値する立派な軍人だ。


「ブラント君は…試験入学でしたよね?」


「そうですけど、それが何か?」


何を今さらと思いながらも頷く。
試験入学とは、字の如く試験で合格した者が入学できるという意味だ。
この士官学校には、一般クラスとエリートクラスに別れていて、士官候補生の8割はエリートクラスの者達である。
試験入学者は一般クラスとなる。
反対に、エリートクラスとは貴族の子息が幼少期のころから学校へ入り進学していくエスカレーター式のクラスである。


「君達一般クラスの候補生は、難関である試験を突破し候補生となった」


「は、はぁ…」


この学校は8割がエリートクラスの者達で占めている故に、一般試験で入学できる者が全体の2割程度だ。
その為、試験はかなりの難関なようだ。
私は、幼い頃よりそれなりの教育を受けていたし、ヒューゴからも教えを受けていたから、そんなに難関には感じなかった。


「その中でも、君は特に優秀だ。
士官学校始まって以来の秀才だろう」


「そんな事は…
第一、私は体術が苦手です」


「ハハッ。
君は女の子みたいな体つきだからね。
けど、それを差し引いても君は優秀だよ」


「あ、ありがとうございます」


一瞬、肝が冷えた。
自分が女だという事がバレたのかと…


「さて、本題なんだが…
本日の講義終了後に理事長室まで足を運んでもらいたい」


この時のアーゼル教官は、教員というより本来の軍人独特の冷たい目をしていた。
印象をガラッと変えた彼に何か違和感を感じながらも了承する。


「解りました」


「では、後程理事長室で」


そう言ってアーゼル教官はその場を去っていった。
私も講義を受ける為、教室へと向かっていった。