「いてっ、なんだっつーの」
そのグループの一人の男の子の腕を掴むと、張り付けたかのような冷たい笑みとは裏腹に穏やかな声で言った。
「……大変申し訳ありません。他のお客様のご迷惑になりますのでご退場頂きたいのですが」
「はぁ?退場するのはそのデブだろうが。あいつのが邪魔だろっ」
「いい加減、口を慎めよ」
一層鋭くなった目と低くなる声に、騒がしい音楽だけを残して一瞬にして静まり返るフロア。
「外へお願いします」
そのまま黒人のスタッフを呼ぶと彼らを追い出させた。
すると今度は私の方へ、
「おいで」
そう言って太い腕を引かれ、その場から連れ出される。
あぁ騒ぎの火種となってしまった私も追い出されるのか、と悔しくて涙が滲んだ。
それに、やっぱりレディースデーなんかに、私のような存在は迷惑なだけでしかなかったのか。
そんな特別な日も関係なく、私はこの店には、この街には相応しくないのだろうか。
きっと、この人もそう思ってる。
そうして連れて行かれた先は入口ではなく、クラブの入った雑居ビルの裏口、外のらせん階段へと繋がっているところだった。
「ここから降りて帰りな」
「……ここに相応しくないからですか?」
「相応しくないというか、楽しんでるようには見えなかったけど。あれだけいじられて、それだけ悔しい思いしながらどうして自分から帰らなかったの?」
「だってあそこで逃げたら負けたような気がしたから。私、今まで自分の人生なんてどうでも良いと思ってて、ずっと投げやりに生きてきたんです。でも東京に来たら何か変わるかもって、それで上京して初めてクラブに来たんですけど」
「……」
「そもそもここへ来る前から六本木なんて、自分なんかが行く場所じゃないって思ってたんです、きっと楽しめないって言うのも分かってたんですけど。断ったらそれもそれで、逃げてるみたいで」
今にも感情的になって泣き出しそうになる私を前に、頭の後ろを掻いてめんどくさそうに目をそらすバーテンさん。
「……あー、ごめん、もうフロア戻らないといけないから」
「でも、私これで決心がつきました」
そんな涙をぐっとこらえて、バーテンさんの顔を見上げる。
「え?」
「私、絶対痩せて、見違えるような美人になって、ここに戻ってきますから」


