広い脱衣所の中。
でっかな鏡の前で、自分の全身の裸を見つめる。

むにっと掴める脇腹、ふっくらした二の腕、ぽてっとした太もも。

……やっぱり違う。
体のラインが丸くなってる。

恐る恐る、そっと体重計に乗った。
そこで見た衝撃の数字に、思わず悲鳴をあげた。


「ひぃいいいいいいっ」

その悲鳴を聞きつけたのか、ドアの向こうから榊原さんが声をかけてきた。


「なんだよ、変な悲鳴あげて」

「あ、あ、あ……」

「おい大丈夫か」

「2kg太ってる」

「お前、食いっぷりいいもんな」

そう言って榊原さんの笑い声が聞こえてきて、ドアの向こうの彼をキっと睨み付けた。

一体誰のせいだと思って……っ!
美味しいお店ばかり連れて行かれて、確実にこの人に肥えさせられたのに。

……やばい、やばい。
これは本気でやばい。


週末はレセプションパーティーで、ちょっとしたワンピースドレスを着る予定になっている。

しかもダイエットしてから、ここまでのリバウンドはなかった。
見たことのない数字にショックを通り越して恐怖さえ感じてくる。


……よし、パーティーまでまた本格的にダイエットを始めよう。
20kg減量した私にとって2kgなど容易い。

決死の覚悟をしたところで、自分の荷物から小瓶に入っていた黄色い少し大きめの錠剤を一錠飲む。


「何だよ、この見るからに怪しい薬は」

ちょうどその様子を見ていた榊原さんが、錠剤の入っていた小瓶を持って不審がるように成分表を見ている。
それは日本では扱っていない、海外から取り寄せたダイエット用のサプリメント。


「は?カフェイン200mgってやばいだろ。その他の成分も聞いたことないんだけど」

「分かってるよ、だから緊急事態しか飲まないようにしてるもん」

「今、2kg太って緊急事態な訳?」

「そう!」