そう言って私の体から離れる。
こ、これで、終わり……?
いきなり嬉しそうな彼。一体今までのはなんだったっていうの。
「今日もう泊まって行くだろ?明日の服手配させておくから。心配しなくても、これ以上は何もしないよ」
これだけ人の気持ち振り回しておいて、去り際あっさりし過ぎじゃない?
だけどここで終わってくれたことに、心底ほっとする。
「明日も早いし、もう寝た方が良い。俺もシャワー浴びたら寝るから」
「……う、うん」
「おやすみ」
そう言って微笑むと私の頭をくしゃっと撫でる。
その瞬間、かぁっと頬に熱が集まってくる。
……だめだ、こんなんで舞い上がっちゃいけない。
簡単にほだされたりしちゃいけない。
こんなの、社長さんの気まぐれの遊びなんだから。
そうじゃなきゃ、社長さんが私にキスをする理由ないもの。
考えてみれば、営業先の相手の女なんて使い捨てにもってこいだよね。
期限付きの相手だし、職場で毎日顔を合わせる訳じゃないし。
私も27才だ。
それなりに恋愛も経験してきた。
本命の相手にはこんなことできない。
だから簡単に自惚れたりなんてしない。
社長さんにとって、所詮私はどうでもいい女の一人だ。
その日、社長さんより一足先にベッドに入ると、ふと昔のトラウマが蘇ってきた。
こんな良いとこに泊ってるのに、どうしてこのタイミングで思い出してしまうんだろうか。
そうか今日は、近くに泊まっているから……。
それは、初めて上京して六本木のクラブに来た時のこと。
東京に来たばかりで右も左も分からない、オシャレも化粧も知らないデブスだった頃の話。
車のライトや店の明かりで街中がライトアップされて綺麗で、あぁ東京に来たんだなって感動したあの日。
この街にお前はふさわしくないと放り出されたのだ。
……そう、私は昔、この街で人生最大の屈辱を味わった。
だけどおかげで良い出会いもあった。
あの人のおかげで今の私がいるようなもの。
『君は絶対に、誰よりも可愛くなるよ』
その言葉を信じて今まで努力を続けてきたのだ。
笑った奴らを見返したくて、必死にダイエットして化粧を覚えたのだ。
そして一番にあなたに変わった私を見て欲しかった。
なのに、もう会えないなんて。
思えば、その人がちゃんと好きになった最初の人だったのかもしれない。


