「毎日お仕事大変そうですね。仕事が終わって帰った後、家のことをするのは億劫になりませんか?」
「はい、実は週3でお手伝いさんを雇っていて、掃除と洗濯は任せています」
「お食事の方はどうされてるんですか?」
「食事はほぼ毎日外食ですね、取引先の人と付き合いで行くことが多いです」
話していると、頼んだアイスコーヒーとレモネードがやってきた。
ストローを袋から取り出して、飲み物に少し口をつける。
そして静かに、コースターの上に置いた。
いつもなら、なんてことない一つ一つの動作に緊張がはしる。
こんな素敵な人に女が群がらない訳がないのに、どうして結婚相談所なんて。
それに比べて私は、田舎育ちのFラン短大卒のしがない派遣OL……。
目の前の殿上人に圧倒され、自分の身の程を改めて痛感する。
……だけど夢見ちゃったんだからしょうがない。
セレブとの玉の輿婚を。
少し探りを入れるように切り込んだ質問をした。
「……なんだかすごくおモテになりそうですよね。しかもコンサルティング会社の社長さんなんて、パーティなどで綺麗な人とたくさん出会えそうなイメージがあるのですが」
「いやいや、仕事ばかりで寂しい人生ですよ。ちょうど友達が結婚相談所の会社をやり始めたところで、入会させられたような感じです。確かにパーティにはお綺麗な方は多いですが、お付き合いと結婚はまた別ですから堅実的な素朴な方と出会いたかったんです」
堅実的という言葉に、プラタじゃなく無地のコーシのバッグを持ってきた自分に心の中でガッツポーズをする。
ここでは露骨なブランドものは嫌われる。19戦負けてきた経験がやっと生きた。
そして、素朴というキーワードにさり気なくアピールに入る。
「榊原さんは出身どちらなんですか?」
聞いておきながら、出身地はすでにプロフィールを読んでいるため知っている。
むしろ端から端まで熟読し、頭の中に叩き込んでいる位だ。
「北海道です、桜井さんは?」
なのにあえて聞いたのは、この返しを待っていたから。
「私は山形です。田舎から出てきてもう10年近く経つのですが、なかなか都会に染まり切れなくて」
「少しイントネーション違いますもんね」
「分かりますか?お恥ずかしい」
そう言って、照れ隠しをするように、さり気なく口元へ手を持っていきはにかんで笑う。
この一連の仕草も鏡の前で研究したもの。
「いえいえ、可愛らしいと思いますよ」
思いがけない言葉に、本当に顔がぽっと熱くなる。
……あれ?
ちょっと尻込みしてたけど結構感触良くないか?


