けれど翌朝、図書室に行くと瀬尾君の姿はなかった。
他の生徒は何人かいたけど、いるよと言ったはずの瀬尾君はいない。
まだ来てないだけかな。
だけどもう、あと10分で朝礼が始まるはず。
やっぱり嘘だったのかも。
それとも、風邪を引いたとか?
重い気持ちをこらえて私は教室に戻った。
「おはよー可奈」
「美友、おはよう」
「今日すっごい晴れたね。昨日の天気が嘘みたいっ」
昨日が嘘、確かにそうかも。
そもそも瀬尾君は、本当にここの学校の生徒なのかな。
実は全部夢で、幻想で創り出した人だったとか?
突然不安になりカバンを漁ると、昨日撮ってダビングした1枚の写真がそこにあった。
夢、じゃない。
「可奈? どうかした?」
「っ! あ、何でもない。……美友、瀬尾一輝君って人知ってる?」
「瀬尾一輝? って、誰?」
「ごめん、やっぱり大丈夫」
美友も知らないか……
何組なんだろう。
て、別に会えなかったら会えないで困った事はないのに。
その後、何度か休憩時間に図書室へ寄ってみたけど、一度も会えなかった。
休み、なのかな。
期待は薄々消えていたけど、放課後美友に断って図書室へ向かった。
昨日はいたあの人影がない。
……どうして。
その時ふと、本棚に本を置く音がして、ビクッと肩が跳ねた。
そろり、その音がした本棚に回ってみれば瀬尾君の姿が見えて目を見開く。
いた……!
「瀬尾君!」
席に着こうとする瀬尾君を慌てて呼び止め、目が合った瞬間違和感を覚えた。
「…………?」
瀬尾君が、私を見て怪訝そうな顔をしたから。
まるで、お前は誰だと言う顔だった。
「あの、私……高畑可奈だけど」
「誰?」
え、嘘……どういうこと?
「ちょっと瀬尾君、とぼけてる? 昨日話したばっかりじゃない」
「昨日って何。僕は知らないけど」
ムカっとなった。
冗談だとしても、それはないじゃん。
いや、冗談を言っている顔にはとても見えない。
でもあれは絶対夢じゃない。
私は証拠を見せようとカバンの中から写真を取り出し差し出した。
「これ、昨日撮らせてもらった写真。瀬尾君が明日見せてって、私に言ったよね?」
ショックが大きくて、いらついた声になる。
けれど瀬尾君は、その写真を見るなり私を警戒する目で睨んできた。
「何が目的? 僕は君みたいな友人はいない。盗撮までして、よく平気な嘘を言えるよね」
「な……嘘をついてるのは瀬尾君じゃないの! 朝からずっと図書室にいるって言ったのに、探してもいなかったし!」
「本当に迷惑だから、そういうのやめてくれるかな?」
「はぁ……⁉︎」
この人は、瀬尾君じゃないの?
瀬尾君だよね?
本当に自分がおかしいのではと錯覚してしまう。
確かに写真は残ってる。嘘なはずないのに。
悔しさと悲しさ、色んな感情がぐるぐるして瀬尾君に写真を投げつけ図書室を後にした。
冷静な判断ができない。
突然涙がこみ上げてきて、廊下に屈んで顔を隠した。
あの人は、誰。
昨日の瀬尾君と違う。優しさがない。
……どうして、瀬尾君の事で泣いてるの私。
バカみたい。もしかしたら昨日の出来事は全て妄想で、無意識のうちに瀬尾君を盗撮していたのじゃないかと自分を疑った。
でも、私は瀬尾君を知らないし見たことも聞いたこともない。
どうなっているんだろう。