「……馬鹿やろうが」


気になんてしてないつもり、だったのに。


「まだまだだなー……俺も……」


何かあるとついつい足が向いてしまう場所、城の屋上。


ここから見える風景が好きだ。


もう夕方の時間帯だ、風が少し冷たい。


ポケットに手を突っ込んで、ハンカチにくるまれた物を取り出す。


掌にのせて眺めながら、大きい溜息を一つ。


モモが、自分の事情を知らないことは分かっている。


あえて言わなかったんじゃない、言いそびれたというか……いやそもそも、自分の嫌な過去を暴露する必要がなかった。


城の皆は、当時の自分を知っている。


イサキはまだその時は城にいなかったけど、話す機会があった。


彼には腹割って話したし、彼もよく理解してくれた。


……まあ……思い出したら、こっぱずかしくなるくらい。


もの凄くへこんだし、激しく打ちひしがれた。


それ以来、自分をそこまでへこました元凶……あの人については、城の中ではなんとなくタブーになった。


誰もが、あの人について触れなかった。


そんな皆の心遣いに気がつきながら、いたたまれない日々を送った……立ち直ったのはだいぶ経ってから。


傷は癒えた……けど、消えない。


出来るなら、やはり触れて欲しくない。


掌に載せた物を握りしめる。


2枚の古いコインだ。


遠い昔に父親と交わした約束の証だし、父親の形見でもある。


「……なあ。

許せない、よな……やっぱ……」


その呟きは今は亡き父親へ言ったのか、自分自身に言い聞かせたのか。


頑張ってた父親を、自分を。


あの人は裏切ったんだ。