『おぅ、てめぇら全員、晩飯食わへんのか!?

こちとら腹ぺこなんや、どこほっつき歩いとんか知らんけど、食うんやったら食うでさっさと席ついたらんかい!!

ワシを餓死させる気ぃか?!

おぅ?!

ええかげんにせんとお前ら順番にドタマカチ割ったんぞ、ほんっまええかげんにさらせよワレぇえ!!』


「……やばい!

スイッチ入った!」


ケイ兄が狼狽えた。


スピーカーから大音量で聞こえてきた物騒な城内放送……アカネさんだ。


彼女は普段は普通の人なのに、怒りが爆発するとあんな感じのスイッチが入る。


ちなみに彼女、戦師の大将ことタスケさんの愛娘で、狩人の資格も持つ獣医師。


そしてその大将もイッシン様の親友だから、アカネさんとケイ兄は幼馴染みにあたる。


彼女がひと度キレだすと父親の大将はおろか、シン兄を唸らせるウキョウさんでさえも敵わない。


「早く行こうぜ!

殺される……」


「同感です!

彼女の逆鱗に触れるのだけは避けたいです……百害あって一利なし、ですよ!」


ケイ兄にウキョウさんが、駆け足で非常階段をおりていく。


自分も続こうとして……ふと振り向いたら、シン兄に何やら耳打ちされたモモ姉が、顔を真っ赤にして立ちすくんでいた。


「……?」


「なーにやってんだイサキ、アカネの標的にされっぞ!」


シン兄が自分の横を通り抜けて、ケイ兄達の後に続いて走って行った。


「……

どったの、モモ姉……」


「……『俺の……』」


「は?」


「『俺の母さんは、もうちょっと字が綺麗だぞ』って……」


「……」


モモ姉の三度めの嘘、あの手紙。


シン兄はちゃんと読んでいたらしい。


しかも……今までずっと『あの人』としか呼ばなかったくせに。


「『でも、ありがとな』って……」


「……

はいはい、とにかく行こ行こ!

もー……シン兄もモモ姉も、素直じゃないけどかわいいかわいい!」


「もう!

何よぅ」


「あ~もう……心配して損した……

でも」


「?」


二人して走りだす。


モモ姉が首をかしげ、自分が笑顔で答える。


「お疲れ様、モモ姉。

大変だったろうけど……よかったね!」


「……うん!」


夕日はいつのまにか沈んで、もう一番星が出ていた。


……そして迎える明日、……それはシン兄にとって怒濤の日となってしまうんだけど。


そのことを、当たり前だけど今はまだ。


知る由もなかったんだ…………





《完》