「……っとっと、なんだよ……」


すごいスピードで、モモの奴が廊下を走っていった。


ぶつかりそうになったけど、まあなんだ、自分の身体能力なら。


これしき避ける位、お茶の子さいさいだ。


「待ってよモモ姉ー!」


しかし、その後ろにはイサキが続いていた。


さすがに避けきれねえ!と思ったけど……相手がイサキで助かった。


彼の俊足は、城でもトップクラスだ。


いざという時の瞬発力は、もしかしたら自分より上かもしれない。


うまいこと避けてくれた。


「あ……っ、ごめんケイ兄!」


彼は謝ってそのまま通りすぎようとした。


いやいやちょっと待てや、とその腕をむんずと捕まえる。


「わっ……な、なんだよ、ごめんって!」


「別に構やしねえけどよ……なんだよあの、爆走猛ダッシュ」


モモのダッシュを指して言った。


イサキはう~ん……と渋い顔をしつつも話してくれた。


「ほら今日、4月馬鹿だろ。

嘘ついてもいい日」


「おう。

俺もさっきウッキーによぉ、今夜は焼き肉っつわれてさぁ。

めっさ喜んで、その後めっさ愕然としたとこだ」


「いや、ケイ兄の愕然話はいいけど……

モモ姉が。

シン兄にやられてさ。

腹立ちまぎれなモモ姉がついた嘘が、シン兄のお母さんから、シン兄に手紙がきたっていう嘘」


「……うっわ、シャレなんねえ……」


「だろ?

で、モモ姉にさ、シン兄の過去話したんだよ。

モモ姉知らなかったから。

そしたらアレだ。

シン兄のお母さん、悪い人になってんのはおかしいって。

シン兄に直接問いただすってさ」


「……マジかよ……」


「この状況で4月馬鹿する程KYじゃないよ、俺」


イサキは再びモモの後を追って走って行った。


既にモモの姿は見えなくなってたけど、……まあ、あそこだ。


自分でも分かる。


何かあると、あいつが必ず行く場所、屋上。


皆知ってるようだ、イサキもためらいなく、屋上に続く非常階段の方に足を向けたから。