当時は、意味が分からなかった。


え、なに?と聞き返したけど、彼はそのまま寝てしまった。


ただ、その顔が幾分楽になったように見えた。


次の日の朝には、すっかり熱も引いた。


夕方にはもう起きあがって、体を動かしていた。


ウキョウさんに、ぶり返したらいけないからおとなしくしてなさい、と窘められて、はーいと返事しつつも。


影では、もう平気なのにー、とブチブチ言ってる彼の姿を見て本当に安心した。


「……あんなにしんどそうな時によ?

そんなにも心の底からお母さんのこと嫌ってたら。

間違ってもその場面で、出てくるはずないでしょ!?」


彼は、歯を噛みしめて下を向いた。


顔が真っ赤だ。


だから、こんな逃げ道を塞ぐ言い方はしたくなかったんだけど……


「……ちっ……」


「分かってんでしょ。

お父さんが亡くなった時、お母さんがシンラに告げてたら。

……今頃シンラ、村に帰ってここにはいなかったかもしれないのよ。

帰らなかったとしても、少なくともお母さんのことが気になって、修行どころじゃなかったんじゃないの?

お母さん……シンラの『戦師になる』ってな夢のために、身ぃ引いたんじゃない!」