放心状態の自分を気づかせてくれたのは、お向かいのおばさんだった。


おばさんの家にあがらせてもらい、こうなった経緯、事情を聞いた。


……2年前。


父さんは死んでいた。


大雨後の崖の補強工事の指揮をしてる時に、地盤が崩れて土砂崩れに巻き込まれたんだとか。


村長さんはじめ村の有志で、村の見晴らしのいい場所に父さんのお墓を作ったそうだ。


そして、あの人は。


父さんが死んですぐだったそうだ。


父さんの保険金だけ受け取って、以前からいたらしい見なれない男と一緒に、そそくさと村を出て行ったらしい。


……信じられなかった。


自慢の両親は、いくら貧しくても、たとえお互い距離が離れていても。


清く正しくあるものだと思っていた。


お互いに必要不可欠な存在で、嘘偽りなんてないものだ、と。


あの人は……父さんがいなくなった途端、自分を見捨てたんだ。


たしかに、息子は遠く離れて旦那はなかなか帰って来ない、そういう生活は寂しかったのかもしれない……でも、だからって!


おばさんの話は続く(当時は頭に入っちゃいなかったけど)。


あの人は村を離れる際に、一つだけおばさんに託していた、それが父さんの遺留品……コインだ。


このコインは、王様にスカウトして頂いて、家を離れることになった際に。


父さんと1枚ずつ、お互いの名前と日にちを書いて交わしたものだ。


お互い夢に向けて頑張ろうって、その決意の記念に。


だからその日まで自分は、父さんの名前が入ったコインを持っていた。


おばさんが渡してくれたのは、昔に自分が書いた自分の名前入りコイン……下手な字だった。


幼かった。


何も知らなかった……あの頃は。


『皆から愛される、立派な戦師になって下さい……体にはじゅうぶん気をつけて』あの人は、そうことづけたらしい。