裏庭に来たのは多分これが3回目ぐらい。
思ってたより沢山の花が咲いていた。
校舎に繋がるコンクリートの所に座り、幾つかの花を描く。
花をこんなにじっくり見たのは初めてで、その儚さと美しさに、確かに心惹かれた。
その描いた花の周りに、簡単に空を付け足す。
「何してんの。」
声の聞こえた方を見ると、女の子が見下ろす様にすぐ側に立っていた。
聞いたことある声、夢中になっていて近づいてきているのに気がつかなかったようだ。
逆光で顔がよく見えない。
胸までありそうな長い髪が風に靡き、陽に照らされた白い肌が輝いていた。
「え…、スケッチ。」
「ふーん。」
聞いてきた割に、然程興味はないようだ。
彼女は右斜め前にある木陰に寝転び、そのまま寝てしまった。
逆光が無くなり、やっと顔が見えたら、見たことある顔。
同じクラスの蒼井さんだ。
席は遠いし、喋ったこともない。
多分俺の名前も知らないと思うし、俺も苗字くらいしか知らない。
こんな顔してたんだ、……綺麗だな。
花と同じ様に暫く蒼井さんを見ていると、黄色い蝶が飛んできた。
ふわりふわり。
少し茶色がかった髪に止まった瞬間、俺はスケッチブックの真新しいページに鉛筆を走らせていた。