「お前ら、またいるのか。」
「あ、わっさん。」
わっさん事渡辺先生は、美術部の顧問で、昔有名な賞を取ったとかで、絵が凄く上手だ。
「中々いいものが描けなくて。」
どれどれと言いながら近づいてきて、俺の絵をじーっと見る。
「お前、また空描いてんのか。そんなに好きなのか?」
「いや、まあ、好きですけど。」
わっさんに向けていた視線を、空に向けて続けた。
「空って、いつ見ても違う顔をするじゃないすか。だから、」
描いていた時より赤が濃くなり、混ざり合った赤やオレンジや紫から目が離せなくなった。
「何度描いても飽きないんすよ。」
描いていくうちにどんどん変わっていくから難しいけどな。
その瞬間にしかない景色は、儚くて好きだ。
「んー、いいと思うけど何かなぁ。」
何かが足りないと言う風に首を傾げたのも束の間、何かを思いついたように声を漏らした。
「人でも描けば?」
「そーいや、直人が人描いてんのとかあんま見た事ねぇな。」
「いや、俺、人は苦手で…。」
「何でだ?前授業で描いた時中々描けてたじゃねぇか。」
上手とか下手とかじゃない。
困惑した表情を浮かべる俺を見て、雄大は理由を思い出しニヤニヤしだした。
「あー、そっかそっか。直人くんは恥ずかしがり屋だから人を見ながら描くのが苦手なんだよねぇ。特に女子はねぇ。」
俺の少し赤くなった表情を指差し、ケラケラ笑う。
「うるせえ。言い方がキモい。」
「お前は乙女か。」
先生まで言うなよ。
「まぁ、人じゃなくてもいいよ。花とか、動物とか、なんかお前が心惹かれるものを描きゃいーさ。」
「…はい。」