「できた。」

蒼井さんが静かに声を発した。


スケッチブックを片手に立ち上がって、蒼井さんの所まで行き、出来上がった絵を覗き込む。



思った通り、俺と同じ花を描いていた。



「うまいな。」

素直な気持ちを言葉にした。


「君に言われたくない。」

俺を見上げて、眉を寄せて頬を少し膨らませる。


嫌味じゃなくて、蒼井さんの描いた絵は、本当に上手かった。


それは、花だった。



「見せて。」

「ん。」

まだ少し拗ねたような顔をして、手を伸ばす。


蒼井さんの斜め前に座ってスケッチブックを渡した。



時間があったから、その周りの花や草も描いた。



「うっざ。」

見るや否や、そう言った。


それから、少し笑みを浮かべてジーっと見る。



「カネキくん、この絵いいね。」

「神木ね。ありがと。」

…この前も苗字間違えてたよな。


「神木…。もうカネキくんで定着してきた。」

俺の手にスケッチブックを返して、笑いながら言った。



「間違えて覚えんなよ。」

「もうカネキでよくない。」

「じゃあ、次から青木さんって呼ぶな。青木さん。」

「やだ。」

意地悪で言って見ると、すぐに返事が返ってくる。



「なんだそれ。」

自分がそれをしてんじゃん。


可笑しくなって、思わず吹き出した。



「んー、じゃあ、下の名前何?」

知らないのか、って思ったけど、俺も蒼井さんの名前知らないかも。


『ら』か『る』がついてた気がする。



「…直人、神木直人。」

なんか少し恥ずかしい。


もういっそ、直人って呼んでくれたらいいのに。


そんな事絶対言えないけど。




「直人。」


蒼井さんが名前を呼んだ瞬間、熱が顔に集まるのがわかった。


自分の名前じゃない感覚がした。