HRも終わり、雄大はまたなーって言いながら、直ぐに部活へ向かった。
俺は準備出来てたけど、蒼井さんがまだ出来てなかったから、準備する振りをして待った。
教室を出ようとするタイミングに合わせ、俺も荷物の入った黒いリュックを背負い、教室を出る。
飽くまで、偶然を装って。
蒼井さんは俺に気づいて、朝と同じように隣を歩いた。
蒼井さんの足取りに合わせて。
「いつもあそこで寝てるの?」
騒がしい廊下を抜け、階段に差し掛かった所で気になっている事を聞いた。
同じ速さで階段を下りながら、蒼井さんは手摺りに手を滑らせる。
「まぁ、寝ない日もあるけど、よくいる。」
時々手が止まって、高い音を出した。
「いつから?」
「んー、一ヶ月くらい前。」
何でそんなこと聞くの?みたいな顔してくるから、何となく聞いただけって言った。
「家で寝ればいいのに。」
何気なく言った言葉。
すぐに返事が返ってこなかったから、俺は言ってはいけない事を言ったと思った。
「もし変な人が来たら、襲われてたよ。」
付け足すように、言葉を並べる。
「まだないから大丈夫。」
「まだって…。」
やっぱ、不用心。
「この前さ、俺が先に居たのに、よく普通に寝れたね。俺が変な人だったら危なかったよ。」
立ち止まって、脅す様にいつもより低い声を出す。
蒼井さんも一つ下の段で立ち止まって、俺を見上げた。
「そんな風には見えなかったから。」
そう言って、また歩みを進める。
二人の間に少し沈黙が流れて、
「今日、天気いいね。」
「暑くなってきたな。」
その隙間を埋める様に、何気ない話をした。