――心臓がまだドキドキ言ってる。


慌てて校舎を出た後、私はお気に入りの場所に来ていた。


校舎裏の奥。


ここには、どういう訳か、滅多に生徒はやってこない。


おかげで、1人でのんびりとしていられるのだけど。


そこにあるのは、古い古い桜の木。


私にとっては、大事な思い出の桜…。


遅咲きの桜で、今やっと満開。


後は散るばかりの、その木の下で、私は物思いに更ける。


―私、中村先生みたいな大人なんて知らない…。

勢い余ったとはいえ、先生に反抗的だったことは確かなのに。


…なのに、私の言ったことを、きちんと受け止めてくれた。


どうして?


そのことが、信じられなかった。


大概の大人は、『子供のくせに生意気だ』とかなんとかって、怒り出すのに。


あの冷ややかな瞳の印象と、あまりに掛け離れていて…。


有紀がいう先生と、全然違って…。


知りたい、と思った先生のことが、もっとわからなくなった。