「ただいま~」

全ての講義を終えて家に戻ると

「お帰り~」

とリビングから声がした。

手を洗ってからリビングに向かうと、

ライはギターケースからギターを出していた。

そしてギターを持ってソファーに移動する。

「何してるの?」

私がライのとなりに座ると

「お手入れ。」

と返ってきた。

「ねぇ、ずっと前から聞きたかったんだけどさ、志穂の家お金持ち?」

「え!?まさか。そんなことないよ。」

私は首を横に振った。

「でもさー、まあまあ立地がよくて2LDK って大学生住めなくない?」

「あー、それはね、私のおじいちゃんがここのアパート管理してておじいちゃんに一人暮らしの場所相談しに行ったらここ住んでいいよって。しかも家賃半額で!!凄く良い条件じゃない?」

「なるほどね。それでか。」

とライはクロスでギターのネックを拭き始めた。

「ライは…ギターが好きなの?」

「うん。大好き。」

そう即答したライはとっても笑顔で。

「俺ね、ミュージシャンになりたかったの。」

と言った。

「なんで過去形なの?ライ、まだ18でしょ?今からでもなれるじゃん。」

「…うん。そうなんだけど…」

その後黙ってしまったライ。

もしかして、自信がないとか?

「ねぇ、ライ。何か1曲弾いてよ。」

私の要求にライはえっ?と聞き返した。

「ライの弾き語り、まだちゃんと聞いたことがないから聞いてみたいなって。」

そう言うとライは

「じゃあ…1曲だけね。」

と言ってギターのチューニングを始めた。

私は何だか懐かしい気持ちになった。

この感覚はいつ以来だろうか。

「…終わったよ。弾いて良い?」

「どうぞどうぞ。」

私がそう言うと彼は優しく弦をストロークした。

指をずらす度にキュッキュッという

弦と指が擦れる音が心地よい。

「~月夜の道を歩く~君の姿を~」

ライが歌ったのは私が高校生の時に

流行った歌だった。

ライの声はギターで奏でられる和音と混ざって

私の鼓膜を揺らす。

凄く綺麗な声だった。

私はこんな風に綺麗な声で歌う人を

もう一人、知っていた。