桜の季節、またふたりで

「そろそろ出ようか」


「は、はい」


竣くんは伝票をつかむと、席を立った。


「あの、払います」


「いいって」


有無を言わせない背中だった。



どうして、黙っていなくなったの?


どうして、電話してもメールしても、返事をくれなかったの?


いま、誰かとつきあってるの?


結婚してるの?


何も聞けなかった。


来なければ良かった。


どんどんみじめになってしまう。


竣くんは、私のことなんて、何とも思ってないんだね。


私はもう、過去の人なんだね。


出入口のドアをさりげなく押さえてくれる腕も。


あったかくて、広い胸も。


もう、誰かのものなんだね。


我慢していた涙が、一筋流れた。


流れたらもう、止まらなくて。


うつむいたまま、歩けなくなってしまった。


「美春?」


そんな優しい声で、話しかけないでよ。