桜の季節、またふたりで

立ち上がろうとした私に竣くんは、


「もう帰るの?


コーヒーぐらい飲んでけば」


ものすごく冷静な声で言った。


「・・・はい、では、そうさせていただきます」


浮かしかけた腰をおろした。


竣くんは窓の外を見ながら、コーヒーを飲んでいる。


カップを持つ竣くんの左手に、指輪はなかった。


でも、仕事中は邪魔になるから、してないのかもしれないし。


私の顔も、まともに見てくれないし。



どのくらい、沈黙が続いたんだろう。


竣くんが突然、話し出した。


「大学合格して、希望してた出版社に就職できたなんて、すごいな」


「いえ、たまたまツイてただけです」


「美春が頑張ったからだろ」


「いえ、そんなことないです」


こんな敬語なんて、使いたくないのに。


たくさんたくさん、聞きたいことがあるのに。


うまく話せなくて、言葉が出てこない。