桜の季節、またふたりで

「お待たせいたしました、ごゆっくりどうぞ」


カチャン、とテーブルにコーヒーが置かれるまで、二人とも無言だった。


何から話せばいいのか、私の頭の中は混乱していた。


でも、私から訪ねておいて、言い出さないのもおかしい。


「あ、あの、突然押しかけて、ごめんなさい」


「ああ」


「あのね、私、4月から東京の出版社に就職して、それで、ディーラーを試乗してまわってて、それで、情報紙を見て竣くんに気づいて、で、今ここにいるわけなんです」


「それで?」


「あっ、やっぱり、今さら来ても迷惑だよね、ごめんなさい」


来なければ良かった。


頭をガーンと殴られたような衝撃だった。


竣くんは、もう私のことなんて、何とも思ってないんだ。


私はもう、過去の人なんだ。


だからこんなに、冷たい態度なんだ。