そして、東京に引っ越す日がやってきた。


3月は、引っ越し屋さんが一年で一番忙しい時期だと思う。


予約を取るのも大変で、単身者用で午後という条件でやっと探した。


最初は、カズに手伝ってもらって自力で引っ越すことも考えたけど、まだ新しい洗濯機を持っていくこともあって、プロに任せることにした。


何もなくなった部屋は、殺風景でさみしかった。


竣くんがこの部屋に来たことはなかったな。


お母さんが亡くなったり、いろいろ辛いこともあったけど、カズとつきあうようになってからは、この部屋で二人暮らしを楽しめた。


「さてと、あとは鍵を返すだけだね」


お母さんが使っていた鍵は、カズに合鍵として渡していたから、鍵はふたつ返すことになる。


鍵をカズから受け取って、二人で玄関に向かった。


私が手にとったキーホルダーを、カズは黙って見ていた。


鍵を外そうとするけど、うまくいかない。


「俺が外すよ」


「大丈夫、できるよ」