「ただいまー」
お母さんが家の前で水を蒔いていた。
「お帰り。お婆ちゃんまだ来てないわよ」
「え、遅くない?」
「なんかね、電車止まっちゃってるみたいなのよ」
お母さんが眉毛を八の字にして困ったような顔をした。
「夕飯までには来られるのかな」
「うーん、今日はいつもより遅くなるかもね。あんた先に食べる?」
「いいよ、お婆ちゃんと食べたい」
「わかったわ」
私は家の中に入った。
私の家はうっすらと昭和の残り香のある家で、階段はギシギシとなるし、柱は黒ずんでいる。古くさいかもしれないが、私は結構気に入っている。古い家はどこかたくましい雰囲気があり、亡くなった祖父を思わせるからだ。
私の部屋は二階の角の部屋。床は畳で、広いとは言えないが文机があり、その前にある障子窓からは遠くの方に海が見える。だから、私は部屋にいるときは大抵文机の前に座って何かしらをしている。今日は、夏休みの課題をやれるところまでやる予定だ。夏休み後半になって必死に課題に取り組むのは情けないやら辛いやらで悲壮感が漂うのだ。
すっかり平たくなった座布団に胡座をかいて文机に向かった。微かに香る海風が心地よく、集中しやすい。
半ページほど終わらせると、階下からお婆ちゃんの声がした。
「こんにちは」
時計を確認すると午後6時。
私は課題の冊子を閉じ、文机の脇に寄せてお婆ちゃんの元へ向かった。
「お婆ちゃん、いらっしゃい」
「あぁ、亜稀。電車が止まっちゃってね。飛び込みだって」
「物騒だね」
私はお婆ちゃんを家の中にあげた。
一階の台所からお母さんが夕食を作る音がする。私もお婆ちゃんと台所に向かった。
「座ってゆっくりしててね」
私は食卓の椅子を引いてお婆ちゃんを座らせた。
「お母さん、手伝うよ」
「そう?じゃあ、そこの野菜洗って切ってくれる?あ、オクラは切らなくていいからね」
「揚げ物?」
「うん」
オクラ、人参、茄子に既に種の処理が終わってる半分に切られた南瓜(昨日の煮付けになったものの残り)。夏野菜の天ぷらか。美味しそう。
私は人参と茄子を水洗いして、野菜を切り始めた。
人参はかき揚げにするために細く切っていく。茄子は立てに二等分していって、カボチャは分厚くなりすぎないように切る。
「揚げるのはお母さんやるから」
「はーい」
切った野菜をお皿の上に並べて、私はお婆ちゃんの前に座った。
「お婆ちゃん元気だった?」
「うん、先週とあまりかわりないよ」
お婆ちゃんはお爺ちゃんがいなくなってからは私の住んでいる隣町に一人で住んでいる。だから、週末は私達の家泊まりに来て夕食を一緒に食べるのだ。
「そっか、私も元気だよ。今日はね、藍と白くまを食べてきたんだ」
「いいわね。夏には美味しいでしょう?」
「うん、今日は海も綺麗だったしね」
「そうね、今日はよく晴れていたわ」
お婆ちゃんはニコニコしながら私の話を聞いてくれる。その笑みが私は大好きだ。
「あ、そう言えばね。帰りに新しい友達が出来たよ」
「おや、この辺に知らない子がいたの?」
「最近引っ越してきたんだって。名前が澤村 碧。6年前にこの子のお父さんが単身赴任してうちと交流があったみたい」
「私もあったことがあるかしらね」
「お婆ちゃん6年前はあまりこっちに来なかったからないんじゃないかな?本当に少しの交流だったらしいし」
しばらくお婆ちゃんは思い出そうとしていたけど、やがて私の顔を見て笑った。
「まあ、とにかく。仲良くするんだよ」
「うん」
私は大きく頷いて、お婆ちゃんに笑いかけた。
「出来たわよー。亜稀、手伝って」
「はいはいー」
私は出来上がった料理を食卓に並べた。
天ぷら、刺身、なめこの味噌汁。それに、白米。美味しそうだ。
私はお母さんが席についたところを見計らって手を合わせた。
「いただきます」
夕食を食べ終えて、お母さんとお婆ちゃんとしばらく雑談をしたあとに私は二階に上がった。窓を開けると、空はすっかり暗くなっている。星が綺麗だ。この町は田舎なので、都会とは違って夜空がとても綺麗なのだ。海の方を見ると、星の光を反射してまるで宝石が沈んでいるようだった。
───夏休み中に碧にあの海を見せてあげたいな。
ふとそう思った。
お母さんが家の前で水を蒔いていた。
「お帰り。お婆ちゃんまだ来てないわよ」
「え、遅くない?」
「なんかね、電車止まっちゃってるみたいなのよ」
お母さんが眉毛を八の字にして困ったような顔をした。
「夕飯までには来られるのかな」
「うーん、今日はいつもより遅くなるかもね。あんた先に食べる?」
「いいよ、お婆ちゃんと食べたい」
「わかったわ」
私は家の中に入った。
私の家はうっすらと昭和の残り香のある家で、階段はギシギシとなるし、柱は黒ずんでいる。古くさいかもしれないが、私は結構気に入っている。古い家はどこかたくましい雰囲気があり、亡くなった祖父を思わせるからだ。
私の部屋は二階の角の部屋。床は畳で、広いとは言えないが文机があり、その前にある障子窓からは遠くの方に海が見える。だから、私は部屋にいるときは大抵文机の前に座って何かしらをしている。今日は、夏休みの課題をやれるところまでやる予定だ。夏休み後半になって必死に課題に取り組むのは情けないやら辛いやらで悲壮感が漂うのだ。
すっかり平たくなった座布団に胡座をかいて文机に向かった。微かに香る海風が心地よく、集中しやすい。
半ページほど終わらせると、階下からお婆ちゃんの声がした。
「こんにちは」
時計を確認すると午後6時。
私は課題の冊子を閉じ、文机の脇に寄せてお婆ちゃんの元へ向かった。
「お婆ちゃん、いらっしゃい」
「あぁ、亜稀。電車が止まっちゃってね。飛び込みだって」
「物騒だね」
私はお婆ちゃんを家の中にあげた。
一階の台所からお母さんが夕食を作る音がする。私もお婆ちゃんと台所に向かった。
「座ってゆっくりしててね」
私は食卓の椅子を引いてお婆ちゃんを座らせた。
「お母さん、手伝うよ」
「そう?じゃあ、そこの野菜洗って切ってくれる?あ、オクラは切らなくていいからね」
「揚げ物?」
「うん」
オクラ、人参、茄子に既に種の処理が終わってる半分に切られた南瓜(昨日の煮付けになったものの残り)。夏野菜の天ぷらか。美味しそう。
私は人参と茄子を水洗いして、野菜を切り始めた。
人参はかき揚げにするために細く切っていく。茄子は立てに二等分していって、カボチャは分厚くなりすぎないように切る。
「揚げるのはお母さんやるから」
「はーい」
切った野菜をお皿の上に並べて、私はお婆ちゃんの前に座った。
「お婆ちゃん元気だった?」
「うん、先週とあまりかわりないよ」
お婆ちゃんはお爺ちゃんがいなくなってからは私の住んでいる隣町に一人で住んでいる。だから、週末は私達の家泊まりに来て夕食を一緒に食べるのだ。
「そっか、私も元気だよ。今日はね、藍と白くまを食べてきたんだ」
「いいわね。夏には美味しいでしょう?」
「うん、今日は海も綺麗だったしね」
「そうね、今日はよく晴れていたわ」
お婆ちゃんはニコニコしながら私の話を聞いてくれる。その笑みが私は大好きだ。
「あ、そう言えばね。帰りに新しい友達が出来たよ」
「おや、この辺に知らない子がいたの?」
「最近引っ越してきたんだって。名前が澤村 碧。6年前にこの子のお父さんが単身赴任してうちと交流があったみたい」
「私もあったことがあるかしらね」
「お婆ちゃん6年前はあまりこっちに来なかったからないんじゃないかな?本当に少しの交流だったらしいし」
しばらくお婆ちゃんは思い出そうとしていたけど、やがて私の顔を見て笑った。
「まあ、とにかく。仲良くするんだよ」
「うん」
私は大きく頷いて、お婆ちゃんに笑いかけた。
「出来たわよー。亜稀、手伝って」
「はいはいー」
私は出来上がった料理を食卓に並べた。
天ぷら、刺身、なめこの味噌汁。それに、白米。美味しそうだ。
私はお母さんが席についたところを見計らって手を合わせた。
「いただきます」
夕食を食べ終えて、お母さんとお婆ちゃんとしばらく雑談をしたあとに私は二階に上がった。窓を開けると、空はすっかり暗くなっている。星が綺麗だ。この町は田舎なので、都会とは違って夜空がとても綺麗なのだ。海の方を見ると、星の光を反射してまるで宝石が沈んでいるようだった。
───夏休み中に碧にあの海を見せてあげたいな。
ふとそう思った。

