2017年7月21日。私の高校は夏休みに入る。高校生活で初めての夏休み。私の胸は高鳴っていた。
終業式の後、それなりの成績がついた通知表を鞄に詰めて帰り支度をする。
「亜稀!」
幼なじみの藍が声をかけてきた。狭い地域なので、だいたいの生徒が幼なじみなのだけれど。
「なに?」
「帰りに白くま食べに行かない?」
聞く人が聞いたら、一瞬恐ろしいワードに聞こえなくもない。白くまとはかき氷に練乳をかけた物で白くまの耳、口、目、鼻のように果物が乗っている。こんな暑い日にはぴったりだ。
「いいよ。あ、でも食べたらすぐに帰らなきゃ」
「何かあるの?」
「うん、お婆ちゃんがうちに来るの」
「そうなんだ。じゃ、早めに切り上げよっか」
「ありがとう」
藍はさっぱりとした性格で男女ともに人気がある。今みたいに、こちらに都合があれば気を使って笑顔で承諾してくれる。私には勿体ないくらいの誇らしい親友だ。
「行こう」
「うん」
私達は白くまを食べに向かった。道中、あまりの暑さに汗が止まらなかった。汗ばんだ体に制服がベッタリと貼り付いて気分が悪いが、店に着いて涼しい店内に入ると、途端にそれは気にならなくなった。
「あー涼しい~」
「ねー。あ、窓際の席が空いてるよ」
「本当だ。ラッキー」
私達が窓際の席を喜ぶのには訳がある。この店は海に近く、窓際に座れば海を一望できるのだ。
「今日は晴れてるから、海が特別綺麗だね。ほら、入道雲もすごい綺麗」
「大きいねー!写真撮る~」
藍が窓に向かって携帯を構えていると、店員さんが注文を取りに来た。
「ご注文はお決まりでしょうか?」
「はい。白くま二つお願いします」
「かしこまりました」
店員さんが奥に引っ込んだ。
「あぁ、亜稀ありがとう」
「いえいえ。それより、いい写真は撮れた?」
「うん、見て見て~」
藍が子供のような笑顔で画像を見せてくる。青い海に白い入道雲がよく映えていた。
「いいね」
「でしょー!なんかあれ思い出すよね。国語でやったやつ!なんだっけ?」
「うーん……あ、あれじゃない?若山牧水の悲しからずや~ってやつ」
「そうそれ!あれいいよね」
「亜稀、あの授業寝てたじゃん」
「細かいことは気にしないのー」
そうこうしているうちに白くまが来た。何度も言うけど、人を襲う雪山のアイツではない。
「いただきます」
口に運ぶと、練乳の甘さが口に広がる。でも練乳だけだと甘すぎるから果物も後から口にいれる。すると、酸味やら控えめな甘さら、果物独特の爽やかさが練乳を中和してとにかく美味しい。
「美味しいね」
「うん!夏はこれだね~」
その後も喋りつつ白くまを食べた。食べ終えると、お互いあっさりと自分達の別々の帰路に着いた。
「じゃあね」
「うん、たまに連絡してね」
「うん」
現在、午後2時。夏の陽はまだまだ高い。