「……ヘンタイ。」 吐息が耳元掠めて、城谷さんの髪の毛から落ちた水滴が首筋を伝う。 思わず洗顔料を落としてしまい、床に叩きつけられる音で私は我に返った。 「ご、ごめんなさい……私、帰ります」 城谷さんの手を振り払うようにして私は慌てて扉を押し開けて部屋を飛び出した。 城谷さんが呼び止めて来る様子もなく、私は扉にもたれかかって深くため息をついた。 何もない。何も無い――。