「――薫くん?」



先程まで扉の前にいた薫くんが、今は私のすぐ目の前に来ていて、私の肩口から垂れ下がる長い髪の毛をひと房すくい上げた。


行動の意図が読めずに困惑していると、薫くんは泣きそうな顔をしながらすくい上げた私の髪の毛に唇を寄せた。


何も――言わない。

私も、彼も。


重たい沈黙が部屋の中いっぱいに満たされた。


薫くんのどこか祈るような仕草に、私は首を傾げる。