「……そういうことだったの?」

「違、」

「今朝一緒にいたのも城谷さん?」



違う、と否定しようとしたけれど、次に薫くんの唇から弱々しく零れた言葉に私は黙り込んでしまった。



「俺より城谷さんの方が良い?」



悲しみよりもどこか諦めを含んだその響きに、私は後頭部を鈍器で殴りつけられたような錯覚に陥った。

薫くんに見捨てられるかもしれない自分勝手な恐怖と不安で涙が出てきて、上手く言葉を発することができない。


薫くんの方に走り出したくても城谷さんが私を強く抱きしめているから動けなくて――離して、と声が出ない代わりに意思表示として手で腕を振りほどこうとするけれど、もがくほど強く抱き込まれる。


そんな私の様子が薫くんの瞳にどう映っているのかはわからないけれど、薫くんはそっと目を伏せて悲しそうな顔をした。



「……もう、いいよ。」



魔法が解ける合図はあっさりと、王子様の口からこぼれ落ちたのだった。